導入事例
岐阜大学医学部附属病院
「来なくてもいい医療情報」への第一歩
分離環境下のファイル移動における脱USBメモリを実現

- ドラッグ&ドロップするだけの簡単操作で、分離環境下での安全かつ手軽なファイル移動が可能に
- 時間や場所にとらわれないデータ活用を実現し、管理者の時間外対応の負担を軽減
- USBメモリの紛失やウイルス感染のリスクを低減。ログ管理機能でセキュリティ監査にも対応

岐阜大学医学部附属病院 様 イメージ図

USBメモリによるファイル移動の煩雑さとセキュリティリスクが顕在化
2025年8月に創立150周年を迎える岐阜大学医学部附属病院は、がん診療、難病、救命救急医療など、多岐にわたる医療分野で地域の中核を担う特定機能病院である。従来、同院ではネットワーク分離環境の電子カルテシステムから情報系端末にデータを移動する際にUSBメモリを利用していたが、さまざまな課題を抱えており、改善が求められていた。
医事課 課長補佐の加藤一郎氏は、従前の課題を次のように述べる。

「データを持ち出すためには、医師が自身で電子カルテ端末を使って所定のフォルダへデータを移動した後、医療情報係に申請書を提出。指定のUSBメモリを受け取って自身でパスワードを設定した後、部局内の専用端末でデータをコピーする必要がありました。医療情報係もUSBメモリの初期化、貸出記録、持ち出しファイルの記録などの管理に手間がかかり、利用者、管理者双方にとって大きな負担となっていました」
医療情報部長の森龍太郎氏は、時間外対応の課題を指摘する。
「医師は学会発表、論文作成、症例報告、紹介状作成などで電子カルテシステム内のデータを必要としますが、これらの業務は診療時間外に行われることが多く、必要な時にデータを取り出せないことが課題でした」
加藤氏は、時間外の対応について次のように話す。
「医療情報係は本来、平日の日中帯しか対応できません。しかし時間外にデータが必要になった医師から、対応を求められるケースも少なくありませんでした。USBメモリの貸し出しは、およそ2週間で20回ほど。予備のUSBメモリを含めて使い切ってしまう場合もあり、医師に返却を催促することもありました」
USBメモリの利用は、紛失による情報漏えいの他に、ウイルスが潜むPCへ接続されたことによるウイルス感染などのセキュリティリスクが懸念される。このことについて、森氏は次のように述べる。

「万一、誰かがUSBメモリを紛失した場合、病院は個人情報流出の有無について記者会見などで説明しなければなりません。システムのログで持ち出されたファイルはある程度追跡できますが、最終的には当事者の記憶に頼ることになります。そのため、病院としては原則、USBメモリの利用を推奨しない方針としたかったのです」
FileZen Sの導入でUSBメモリを介さない安全なファイル受け渡しを実現
これらの課題を解決するため、同院は電子カルテシステムのリプレイスにあたり「ネットワーク分離環境下のファイル受け渡しにUSBメモリを使わない仕組み」を求めた。すると、複数のベンダーがソリトンシステムズ(以下、ソリトン)の提供する分離ネットワーク間のファイル授受製品FileZen Sを提案。総合評価落札方式の入札を経て導入が決まり、2023年1月、電子カルテシステムのリプレイスと同時にFileZen Sの利用が開始された。
FileZen Sは、ネットワーク分離環境で「自分から自分」へのファイル受け渡しをシンプルかつ安全に行うことができるファイル転送ツールだ。FileZen Sのユーザー画面上にファイルをドラッグ&ドロップするだけで、分離ネットワーク間におけるファイルの「送る」「受け取る」をシンプルかつ安全に行う事ができる。
医事課 医療情報係の藤原琢也氏は、同院におけるFileZen Sの利用方法を、次のように説明する。

「電子カルテシステムのアプリ一覧に『ファイル受け渡しシステム』への入口を設けました。クリックするとブラウザが起動し、ユーザーI Dでログインすれば利用できます。インターフェースも分かりやすく、左画面に移動したいファイルを選択、またはドラッグ&ドロップすると、右側に移動。その後、自身のPCで指定のURLにアクセスすれば、ファイルが受け取れます」
加藤氏はFileZen Sは展開もスムーズだったと語る。
「利用者には1枚ものの簡易的なマニュアルを用意して『これを見て行ってください』と案内しただけ。使い方についての問い合わせはほとんどなく、スムーズに利用が広がりました」
構築にあたってのソリトンの対応を、森氏は次のように評価する。
「構築に際しては外部からの侵入をどのように防ぐか、利用者にいかに負担をかけず利用いただくかなど、ソリトンから選択肢を示していただきながら、細かく詰めていきました。結果的に、管理者側も利用者側も負担のかからない形で導入ができてよかったです」
業務効率の大幅な向上とセキュリティ強化の両立を実現
現在FileZen Sは、医師、看護師、検査技師、事務職員など電子カルテシステムを利用する約2,000名の職員が1日あたり数十件利用しており、多くの職員にとって不可欠なツールとなっているとのこと。FileZen Sの導入により申請書作成や記録簿への記載、USBメモリの受け渡しといった一連の作業が不要になり、利用者と管理者側である医療情報係、双方の負担が大幅に軽減された。
森氏は、利用者の視点でFileZen Sのメリットを述べる。
「FileZen Sは操作もシンプルで使いやすく、自信を持って前より良くなったと言える仕組みです。以前は申請書や何のデータを取り出すといった帳面を書くのがすごく面倒でしたし、USBメモリで専用端末から電子カルテシステム内の特定フォルダのデータを移す操作も手順が多く、難しかった。FileZen Sの導入後は時間を気にせず、自分のPCの中ですべて行えるようになり効率的です」
管理者の立場から、加藤氏はFileZen Sを次のように評価する。
「システムとしても安定しており、管理画面を頻繁に見る必要はありませんがFileZen Sは利用者ごとのファイル移動の履歴がログとして残るので、内部監査や監査法人によるセキュリティ監査の際に活用しています。USBメモリに比べ人的な業務負荷も少なく、しっかりと証跡が残せる安心感は大きなものがあります」
なおFileZen Sにはファイル無害化の機能も搭載されているが、同院では利用していない。データの送受信を一方通行に限定し、逆に電子カルテシステムにデータを取り込む場合は、医療情報係が個別にウイルスチェックを実施する運用とすることで、シンプルな運用と安全性を確保している。
さらに今回「電子カルテシステムからインターネットが閲覧できる仕組み」の要求仕様に応える製品として、同院ではソリトンの提供する端末にデータを残さないセキュリティブラウザ製品「Soliton SecureBrowser(以下、SecureBrowser)」も導入している。
SecureBrowserは、端末内に生成した隔離領域で動作するブラウザアプリケーションだ。端末のローカル領域に影響を与えない作りになっているため、汎用ブラウザと使い分けることで、インターネット専用ブラウザとして活用できる。大掛かりなシステムを導入することなく、インターネット環境の分離を行うことが可能だ。加藤氏は、その運用について語る。
「SecureBrowserについては、プロキシサーバーを経由して、ホワイトリストのWebサイトにのみ接続を制限しています。今回のリプレイスで情報系のキャンパスネットワークにファイアウォールを導入したので、それとポリシーを揃える形で運用しています」
SecureBrowserの活用では、意外な効果も得られたと森氏、藤原氏は語る。
「以前の運用では、電子カルテ用端末と、情報系端末は物理的に分かれていました。当初の想定では、医師が治療法を調べるWebサイトを電子カルテ用端末から見られることで医療の質の向上につながると考えていました。実際に導入してみると、Webメールや給与明細、源泉徴収などの閲覧が多いことが分かりました。結果的に、こちらが想定していたWebサイトの閲覧だけではなく、他の情報へのアクセスに対しても利便性が上がりました」(森氏)
「医師は1人1台情報系端末を持っていますが、診療を支援するスタッフであるコメディカルの方々は共用端末を利用しており、利用台数が限られています。そのため、端末を使うための順番待ちが発生してしまう事がありました。SecureBrowserの導入により、その方々が業務の合間に電子カルテ用端末からの事務連絡などができるようになったことで、医師だけではなく、コメディカルの方含め、院全体で業務効率が向上しています」(藤原氏)
「来なくてもいい医療情報」を目指し、さらなる業務効率化と安全性を追求
「我々は『来なくてもいい医療情報』というコンセプトを掲げており、今回の脱USBメモリはその第一歩。まだ道のりは途上ですが、ソリトンのおかげで確かな第一歩を踏み出せました。今回導入した『FileZen S』と『Soliton SecureBrowser』は、多くの職員の業務効率向上とセキュリティ強化に貢献しており、とても満足しています。次回のリプレイスは5年後のため、まだ何とも言えませんが、少なくともこの仕組みは利用者に浸透しており、もう元には戻せないと感じています」
と森氏は語った。そして最後に、ソリトンへの期待を次のように寄せる。
「 医療系システムは、従来よりもインターネットや外部ネットワークに接続する機会が増えているので、どのように個人情報やセキュリティを守っていくのかが、さらに重要になります。ソリトンにはメンテナンスやアップデート時に利用者に影響が出ないよう慎重な対応をお願いすると共に、引き続き、医療現場に有益なサービスの提供に期待しています」
お忙しい中、有り難うございました。
※本ページの内容は、2025年3月作成時の情報に基づいています。